晴天の迷いクジラ/窪美澄

単行本で購入済みの本が文庫化している。
なんだか悔しい。なんだか嬉しい。買ってしまおうか、買いたい、と思う。
お金の無駄だからやめなさい、と私が言う。
お金の無駄だとはなんじゃい、と私が言う。
単行本を持っているんだから、やめなさい、と私が言う。
だってこんな早く文庫化するとは思わなんだもん、と私が言う。
気持ちはわかるけど、今回に限ったことではないでしょう?と私が言う。
まぁね、映画化するし、仕方ないよね、と私が言う。
ふがいない僕は空を見た』(窪美澄)のお話です。
いや、文庫化してるときは毎回思いますけどね。『ゴールデンスランバー』(伊坂幸太郎)なんかは本当に欲しかった。でもそういう人用にか、文庫本書き下ろしで1話増えている『桐島、部活やめるってよ』もずるいから買っていない。乙女心は複雑なのです。


デビュー2作目。
なんて素敵で抽象的なタイトルを付けるのでしょう。装丁も素敵。


晴天の迷いクジラ/窪美澄

晴天の迷いクジラ

晴天の迷いクジラ


様々な理由で、死にたい、死んでもいい、と思う3人が助け合う物語。
自殺志願者に共通するワードは「母」、それが私にはとっても痛かった。
母子の物語を読むといつも思うけど、21歳の私は、子供と母親と、どちらに近いのだろう。
この物語を読んで私が思ったのは、大人の階段は、下り坂かもしれないということ。


Ⅰ.ソラナックスルボックス


母からの愛が上と下に寄ってしまった真ん中っ子、由人が主人公。
東京へ出て、デザイナーとして就職したまではよかったが、彼女に浮気され、会社は倒産寸前。頑張ってきた凡人に対して、あまりに重なる不運。
子育ては洗脳だと痛感する物語でした。母の愛が大きかった兄は引きこもり。妹はグレて若くして母に。由人はそんな家族を見ながらまともに育ってきたのです。そう、彼はとてもまともで良い子。浮気がばれたときのミカの言い分は意味がわからなかったし、彼が幸せになれないところが、世の中厳しくて、怖いのです。


あいさつがしっかりできて、聞き上手。それが長所な由人。そのことをすごく寂しいことのように書いてあるけれど、素敵じゃない、と思う。由人はきっと、良いお父さんになるよと言われてしまう恋愛対象外の男の子なんだろうなぁ。由人の先輩溝口さんなんかは反対にとってもモテそう。そして、会社がつぶれるときに本性がわかるってのは、怖い話でした。良い人であり続けたら負けだなんて、嫌な世の中だこと。


ところでタイトルがよくわからない。


Ⅱ.表現型の可塑性


表現型の可塑性……の意味は辞書で調べましたが、忘れました。趣味は辞書を引くことです、って言える人間になりたいです。嘘です。


貧乏から裕福へ。娘から母へ。母から社長へ。
由人の会社の社長の物語。メインはやはり、娘を愛せなかったところでしょうね。
でも、妊娠した娘を売るようなことをするなんて、ちょっと時代遅れなのでは……?20年前はまだまだそんな感じだったのでしょうか。


なんだか、本当に読んでいて苦しかったです。感情がそれでいっぱいで、他のことはあまり覚えていません。


Ⅲ.ソーダアイスの夏休み


一転、爽やかなタイトルですね。
赤ちゃんのときに亡くなった姉がきっかけで、母から異常に管理されている正子。
正子が高校で出会った初めての友達の人生と、母との関係と……この物語が一番好きですね。
それにしてもお母さんが怖かった。そりゃ友達できませんよね。私の親も厳しい方だけれど、許せるし、今ではそれが正しいと思っています。だから、母を好きじゃないと正子が言えたとき、嬉しくもあり、哀しくもありました。


リストカットをする女子高生、今でもいるの?今でもというか、現実にやはりいるの?やめてー。リスカをする女子の描写があるのに、雰囲気があって良かったなあ。でも、普通娘があの状態で、管理しているならば、カッターは取り上げるのは?と思いました。


Ⅳ.迷いクジラのいる夕景


3人が一緒になって、迷いクジラを見にいきます。
娘を捨てた母と、母を嫌いな娘、そんな2人の言い合いがリアルで良かったです。やはり、どちらの気持ちもわかるんですよね。


読んでいる最中ずっと苦しかったのですが、読み終わってみれば、なんだか綺麗な物語でした。人を描いているのに、痛かった。でも最後まで人でした。改めて、素敵な装丁ですね。



実は今、星野源さんのラジオを聴きつつ書いています。集中力散漫です。
簡単に星野源にハマる。バナナマン日村さんのバースデーソングが好きだなあ。