大きな熊が来る前に、おやすみ。/島本理生

こんにちは。
前回の『ノエル』の記事を読み返してみたら、「やっぱり」という単語を使いすぎだと思いました。語彙力が乏しくて情けない……。そして『ノエル』の良さが全然伝わっていない……。精進しなければ。


さて、今日の予定は掃除と勉強です。しかし遅れて来た生理によりお腹が痛くて動けないので、薬が効くまでブログ更新。何について書こうか迷いましたが、ここ最近読んだ中で一番好きだった本をご紹介。これまで紹介した本を見ると、発売間もないハードカバーばかり。最新の本しか読みませんよふふん、な感じが出ていたかもしれませんが、そんなことありません。文庫本大好きです。中でもこの本は、買ってから一年近く行方をくらませていたので、感慨深い。読んだら良くて、出てきてくれてありがとうと心から思いました。こういう出会いが本にはあって良い。


◆大きな熊が来る前に、おやすみ。/島本理生

大きな熊が来る前に、おやすみ。 (新潮文庫)

大きな熊が来る前に、おやすみ。 (新潮文庫)


表題作を含む三つの短篇集。文庫本もすごく薄くて、手を出しやすい一冊です。
島本さんの作品はちょいちょい読んでいますが、これは『クローバー』を凌ぐ良さかもしれません。女性が主人公の物語がなんとなく苦手なのですが、こんな優しい空気が流れているのなら大歓迎です。


◇大きな熊が来る前に、おやすみ。


不思議なタイトルですよね。しかしなんてことない、大きな熊が来る前に、おやすみ。という物語でした。タイトルの意味がわかったとき、主人公珠実も、恋人の徹平も、数倍愛しく感じられるのです。

一見何の障害もない恋人同士なのだけれど、目には見えない何かがあって、目に見えるそれよりよっぽど厄介。うーん、たしかにそうかも。喧嘩が絶えない二人ってどこにでもいるけど、なんだか平気だものね。一人でいるより二人でいるほうが淋しくなったらお終いだと思いました。

でも、一度とはいえ恋人に手を上げてしまった徹平は弱くて脆い。たしか珠実も言っていたけれど、友達がそういう状態だったら別れたほうがいいと言う。本人もそう思っている。でもそうしないことに違和感が無いなら、良いのかも。小説だからかもしれない。でも、友達にも言わず一人で解決してしまった珠実は強い。二人が幸せでありますように。別れていてもいいけど、幸せでありますように。珠実は一般的な女性だから、きっとなんとかなる。


◇クロコダイルの午睡


都筑くんみたいな人間は絶対嫌だ!家にあげたくない!
そう思うのに、読んでいてあまり不快でないのは、主人公霧島さんが彼を許しているからかも。
いやでも、デリカシーの無い人って本当嫌だなぁ。よく一緒にいられるなぁ。と感心せずにはいられない。女の子の空回りが描かれていて、胸が痛い。

「気付かずに無神経なこと言ってたらごめん」って、その言葉が一番無神経だ。こんな恋は絶対にしたくないけど、してしまったら友達に愚痴るに決まっている。でも霧島さんはそうしない。しないというよりできない。それがまた一層哀しくて、情けない。
都筑くんはきっとたくさんの人に嫌われていて、でもそんなこと気にしていない。そういう人に憧れる気持ちは理解できるから、悔しくなるのです。

「そういうことするときってさ、前か後に風呂入りたいじゃん。俺、ユニットバスの使い方ってよく分からないんだよ。もちろんそんなつもりないけど、それはちょっと面倒だからネックだよね」こんなこと言われたら私は絶交する。この歳になって絶交て。と思うけど、絶交する。


◇猫と君のとなり


この短篇がとても好きなのです。タイトルからして、優しい雰囲気が滲み出ているでしょう?短編集の収録順ってとても重要だと思います。最後の一篇はそのまま読後感に直結しますからね。最後の一篇が良いと他が微妙でもその本が好きだし、その逆もしかり。だから私はこの本が好きなんだなぁ。

穏やかな人間に憧れているんで、この物語の主人公志麻先輩のような人になりたいと思いました。寛大で、穏やかで、優しくて、許せないと思っていても、人の痛みを分かってしまう、そういう人。罪を憎んで人を憎まずを地で行く人。お人よしとかつまらないとか言われるかもしれないけれど、私は志麻先輩が好きで、遠くから見ていたい気分になる。

中学時代の後輩荻原くんが、志麻先輩の心を溶かしていく物語。少しずつ彼に惹かれていく自分を素直に認められる志麻先輩がかわいい。強引なようでひたすら優しい荻原くんがかっこいい。誠実な人ってこういう感じでしょうか。

二人の時間はずっと静かに流れていて、一緒にいる猫のまだらが更に優しさを増しているのです。終盤、このまだらが本当に愛しくなる。志麻先輩がまだらを愛しているのがうつってくる感じ。「僕たち、ちゃんと付き合いましょう」という荻原くんに対する志麻先輩の「一つだけ、お願いがあるの」という場面が本当に良い。ここだけを読み返してもじーんとくる。そのお願いは簡単なようで、実は結構難しいのかも。読み終えてもう一度タイトルを見て、再びじーん。そんな素敵な小説です。


◆大きな熊が来る前に、おやすみ。


島本さんの小説を読んでいると、彼女は料理が得意なんだろうなぁと思います。一人暮らしがあんなふうにぱぱっと料理できたら、かっこいいなぁ。大人な女性だなぁ。出てくる女性の生活が、私の憧れる生活だったりします。私もあんなふうになりたい。切実に。