ノエル-a story of stories-/道尾秀介

ノエル―a story of stories

ノエル―a story of stories


書いていない記事がアホほどありますが、書きたいものを書きたいときに書いていこうと思います。というわけで、今日読んだ本のお話です。私の敬愛する作家さん、道尾秀介さんの新作です。


次々と自分で本を買うようになってから、読み返すということが減りました。道尾さんの作品に至っては、一度も読み返したことが無いのでは。ということで、『ノエル』のうちの一篇、「光の箱」が、道尾作品で初めて二度読んだ作品になりました。「光の箱」は、新潮社の「Story Seller」に収録されていまして、とても好きだったので『ノエル』にはかなり期待していました。


本篇とは関係ないのですが、『ノエル』刊行記念サイン会に行ってきました。
道尾さんのサイン会に行くのは『月と蟹』『光』に続いて三度目です。三度目にしてようやくたくさん話すことができた私。やぁ、楽しかったなぁ。様々な理由により多少は覚えていただけたので、次回もぜひ参加したいです。にしても、サイン会のたびに、珍しい名前が羨ましく感じますなぁ。平平凡凡な名前なので、特に名前にコメントしてもらえず……。一緒に行った方なんて、道尾さんに「出た、難解漢字」とか言われてましたもん。


さて、感想です。
「光の箱」に登場する童話作家が作る童話が、様々な人の人生を変える連作短編。とはいえ、「光の箱」は2008年、「暗がりの子供」は2011年、「物語の夕暮れ」は2012年と、初出の時期が異なるんですけどね。私はやっぱり、「光の箱」が抜群に良かったなぁ。


◇光の箱


同窓会へ赴く童話作家が、その職業を目指すきっかけとなった中学時代へ思いを馳せる。
この物語に出てくる人々が優しくて素直で好きです。それぞれの気持ちが複雑に絡み合っていますが、小説でなくてもそういうことはあると思います。道尾さんは思春期を描くのがすごく上手いと思いました。子供な部分も大人な部分も持ち合わせていて、不器用。
物語が弥生側になったとき、彼女が幸せそうで嬉しかったです。彼らの未来はひたすら優しい。それに確信が持てました。なるべくしてそうなった、って感じ。考えすぎることは悪いことではないのかもしれない。

道尾マジック、と帯に書いてありましたが、それで言うと、「光の箱」が一番マジックだったかな。そしてもちろん、私は道尾マジックが大好物なのであります。仕掛けを作るためのストーリーではなく、ストーリーを魅せるための仕掛けに見えますからね。だからこそ、私は弥生が大好きなのだと思います。

ネタバレしないようにすると、どうしても抽象的になってしまうなぁ。関係ないけれど、『Story Seller』で読んだとき、本多孝好さんの「日曜日のヤドカリ」(たぶんです。調べてないので記憶頼り。単行本では『at Home』収録)の女の子も弥生さんだったんですよ。「日曜日のヤドカリ」もとても好きなので、単純な私は弥生という名前が大好きになりました。道尾さんの『月の恋人』の弥生は別ですけど(笑)正直あの小説は好きじゃないのでね。道尾秀介作と知らなかったら違うのかもしれないけれど。先入観っていやね。

だいぶ話が逸れましたが、「光の箱」は道尾作品の中でもかなり好みなので、単行本を買うのは高い、という人は『Story Seller』を読むといいと思います。道尾さん以外の作品も素敵でした。そして『ノエル』は「光の箱」の2人を軸に、静かに未来が描かれていくのです。


◇暗がりの子供


タイトル通り、主人公は子供です。ひな壇の中に隠れている、暗がりの子供が聞いてしまった大人の会話。純粋な子供は傷つき、童話の世界に浸っていくのです。
主人公莉子が少し成長し、いわゆる大人の事情の気持ちがわかると思った場面が印象的でした。その気持ちがわかるけど、わかるようになってしまった自分が嫌だ、という気持ち。私にもそんな頃あったのかしら。子供の頃は今よりよっぽど純粋だったけれど、私はその純粋さが恥ずかしい。そう思ってしまうことがそもそもダメなのね。子供苦手なひねくれ者め。

道尾さんはよく、辛い目に遭う子供を描くけれど(「光の箱」もそう)、その子供たちに比べれば、莉子の辛さはとても小さい。でも、子供の辛さに大きいも小さいも無いのだな、ということが、莉子の行動からわかりました。しかしおばあちゃんよかったなぁ。でも、この物語には悪者がいなかった。悪者がいないのに、悪者になりかねない。怖いなぁ。

莉子は母親のお腹にいる赤ちゃんに嫉妬します。世の中のお姉ちゃんお兄ちゃんもそんな思いを抱えていたのかしら。私にも弟がいますが、歳が近すぎて弟が生まれたときのことなんてほとんど覚えてないのよね。私の姉はいじけてたりしたのかな。しかし莉子の妹が生まれたあとの両親の行動が好きだなぁ。優しい。愛しい。素敵な大人でした。


◇物語の夕暮れ


教師の職を引退したあとの夫婦の物語。うん、やっぱり夫婦の物語だと思います。奥さんは亡くなってしまったけれど、そんなの関係ない。主人公与沢さんは、奥さんを中心に生きているんだもの。彼の考えを間違っているという人もいるだろうけど、私はそうは思わないかなぁ。小説だから、そうかもしれない。だって綺麗だったもの。だから彼の決断も、やっぱり綺麗だったのです。

「物語の夕暮れ」にはすこーしだけ「光の箱」の二人が出てきて、やっぱり弥生さん良いなぁと思いました。エピローグを読む前なのだから、良いと思うのは弥生さんではなく圭介になるはずなのに、私は弥生さんを感じたのです。エピローグ読んで、間違ってなかったと思いました。

カブトムシの童話が印象的です。カブトムシの見た景色が本当に綺麗でした。「光の箱」のサンタクロースの童話も好きだったけれど、カブトムシも良かったなぁ。それを聞くあの子の存在も良かった。優しい子って良いよね。


◇四つのエピローグ


物足りないような、もっと見せてほしいような、でも充分なような、そんなエピローグでした。総じてやはり、弥生さん大好きだ。3作あるのに、エピローグが4つというのもなんだか良いね。人の人生を感じるのは小説でも素敵なことです。